革新 – Dream Theater 『Images And Words』

人生を変えた、200の名盤

革新 – Dream Theater 『Images And Words』 2026.11.01

20歳になった直後のことだったと記憶している。通っていた慶應義塾大学三田キャンパスで、今でも親交の深い親友から2枚のCDを手渡された。「これ、河村なら気に入ると思うよ。」と。

その2枚は、Anthrax の「Sound Of White Noise」そして今回の主役である Dream Theater の「Images And Words」だった。当時はポータブルCDプレーヤーを持ち歩いており、2枚のうちどちらを先に再生するか悩んだあげく「Images And Words」を選択したことも鮮明な記憶として残っている。

時は1993年、現在のようなストリーミングサービスは存在しなかった。借りたCDを聴きながら帰宅し、興奮さめやらぬままカセットテープにダビングする。ダビングは「Sound Of White Noise」が先だった。「Images And Words」をダビングする過程の中で直感する。このアルバムは何かが違う。一聴してここまで引き込まれる経験が無かったからだ。ダビングが終了するや、渋谷に向かい行き着けのCDストアで自分用のディスクを購入したことも良い思い出だ。

Dream Theater というバンド名は以前から知っていた。BURRN! 誌で彼らのセカンドアルバムになる「Images And Words」が極めて高い評価を得ており気にはなっていたのだが、当時の私には後追いすべき名盤が沢山あり手が伸びていなかったのだ。

そんなタイミングで、親友を通してこの傑作に出会う。自分の人生にとってまさに衝撃的な瞬間であった。そしてそれ以降、Dream Theater は私の人生にとってとても大切な存在であり続けている。

このアルバムは、世界的にも Dream Theater の最高傑作の一つとして圧倒的な支持を得ており、何よりも ProgMetal(以下、プログメタル)という新しいジャンルを確立した金字塔と呼ばれる。こと私にとっては金字塔という言葉をもってしても有り余る価値がある。プログレッシブロックとヘヴィメタルを融合させた彼らは、この後も数々の傑作をリリースし、結成から40年以上経ってもこのシーンを牽引しているといって過言ではない。

「天才とは、その人だけに見える新事実を、見ることのできる人ではない。誰もが見ていながらも重要性に気づかなかった旧事実に、気づく人のことである。」とは、敬愛する塩野七生氏の言葉である。

この言葉に、私がこのアルバムに衝撃を受け今でも魅了され続けている理由が凝縮されていると思うのだ。

今の私は「Images And Words」が私にもたらした価値を次の2点で評価している。

1)「重要性に気づかなかった旧事実の発見」を体現した身近な存在

2)「構築美」に強く惹かれるという自己認識を与えてくれた存在

当時、Dream Theater というバンドは、Rush meets Metallica といった表現で紹介されていたと思う。プログレッシブロックの代表格 Rush と飛ぶ鳥を落とす勢いであったメタルバンド Metallica の融合という文脈だ。両バンドの音楽を知る人にとっては実に的を射た表現であると思う。

一方で、両ジャンルは独立している存在であり、それぞれが違う文脈で語られることの多いジャンルであったことも事実である。Dream Theater はそれまで存在しなかったプログメタルという「新事実」を生み出したバンドではなく、プログレッシブロックとヘヴィメタルという両ジャンルに存在する共通点と親和性という「旧事実」に正しい光を当てたのだ。

大学生であった当時の自分がこのような解釈をしていたかと言えば、嘘になる。これはもう少し大人になってから得たものであり、それについては後述する。

当時の私は「Images And Words」が持つ「構築美」に圧倒され惚れ込んでいたというのが正直なところだ。

幼少の頃より、自分自身が教わったことを実践するよりも、何か自分で探しながら取り組むことが好きであることを認識していた。大学受験においても、紹介されている合格術をトレースして効率よく受験技術を身につけていくことよりも、どのように受験勉強を展開していくかを自ら考え構築することに喜びを感じた。

言い換えれば、自分は「自分らしい何かを創り上げていく」ことに喜びを感じることを自覚していたのだ。そして、創り上げていく過程においても「シンプルなものを磨き上げる」というプロセスよりも「複雑に絡み合う要素を組み合せ、ひとつの美しいものを創り上げる」プロセスに美しさを感じることも自分の特徴であると感じていた。

そんな中で、「Images And Words」に出会った。

「複雑なのに美しい」のだ。それも圧倒的に。

このアルバムには、変拍子、転調、長いインストゥルメンタル、ユニゾン、場面の急展開など実にプログレッシブな要素が満載されているのだけれども、難しい音楽を聴かされているという感覚はない。メタルの持つアグレッション、スピードといった要素と絶妙に絡み合っているのだ。

こんな音楽を待っていた。

こんな人生を送りたい。

まさしく、「構築美」に強く惹かれるという自己認識が確立した。

この出会いから10年の月日が経ち、私は父が創業した事業を後継する立場となった。その過程の中で、経営品質向上プログラムに出会い、日本経営品質賞受賞レベルの経営を実践するという旗印を掲げることになった。

このプログラムに出会う以前、次世代経営者として経営を革新するには、企業を発展させるために何か「新事実」が必要だと考えていた。しかし、プログラムを学習し実践していく中で大切なことに気づいたのだ。経営革新に必要なのは、「誰もが見ていながらも重要性に気づかなかった旧事実に気づくこと」であると。

改めて衝撃を受けた。革新とは「Images And Words」じゃないかと!

この気づきを得たのは、2010年であったと記憶している。アルバムとの衝撃的な出会いから、17年の月日を経ての再発見だった。

プログレッシブロックとヘヴィメタルの融合とは、私にとって最も身近に感じる「革新」だったのだと。

私は「抽象的な事象を言語化すること」が好きだ。同時に、必要であればそれらをフレームワーク化し再現性を高めることの価値を知っている。その性質は、経営者として、そしてシステムエンジニアとして力を磨いてきたこととも無関係ではないと思う。

ふと感じたのだ。自分自身の取り組みは「Images And Words」と類似しているのではと。

「Images And Words」との出会いが、私にこれからどう生きていくべきかを示してくれたとは思っていない。また、それを感じ取れるほど私も成熟していなかった。

けれども、繰り返し愛聴する中で、「自分らしさを発揮できるカタチ」を示し続けてくれた相棒のような存在だと感じている。

その相棒に心からの愛着と敬意を感じながら、静かに針を落とす。